はじめに
現在、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に伴い、日常生活には大きな変化がもたらされています。大学生が主体となって活動する弊団体・NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)にも、学業やアルバイトなど様々な側面で負の影響を受けているメンバーが多く在籍しています。
そんな大学生主体のNPOとして現状を少しでもよくしようと、ROJEでは理事の伊藤駿(広島文化学園大学・専任講師)が中心となり、「【全国の大学受験生・大学生対象】新型コロナ流行による大学進学・在学への影響に関する緊急アンケート」(実施期間は2020年4月22日~4月30日)を行っています。1人でも多くの学生が「コロナで大学を諦めてしまう」ことがないように。今回は、そんなメッセージと共にこのアンケート調査に乗り出した伊藤に、実施に至った背景や本人の想い、そして今後の展望について聞きました。
大学と高校、それぞれの現場から見えてきた「大学を諦める問題」
――今回アンケートを実施されたのはなぜですか?
私は現在私立大学の教員をしていますが、昨年度まで大学院生でした。みなさんは大学院生の生活についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。あくまで私の所属していた大阪大学の話ですが、国立大学の大学院生なんかだと、授業料免除の基準がゆるくなり、比較的半額免除や全学免除を受けている人は少なくありません。しかしながら、それ以外の補助は一切ありません。生活費などは日本学生支援機構の奨学金を借りるか、アルバイトで稼いでいる人がほとんどです。私が博士前期課程(修士課程)に入ったときは運良く博士課程リーディングプログラムというプログラムの開始時期で、生活費相当の収入を得ることができ、研究に専念することができましたが、残念ながら(特に文系では)現在ではそうした状況はほとんど見られません。
前置きが長くなりましたが、そうした状況を見てきたこともあり、今回の一連の自粛の流れ(もちろんそれは必要なことはわかっていますが)は、アルバイトで生活をつないでいる学生たちにとって大打撃になるだろうと想定していました。特に自粛が始まった3月のアルバイト代は4月末に給料として振り込まれる人がほとんどだと考え、この時期の実施を決めました。
もう一つの肝は受験生を対象とした点です。このアンケートを作る前、アンケートに全面協力してもらっているNPO法人ROJE(私も理事として参画しています)の先輩で現在高校で仕事をしている人と電話でこのコロナ騒動の話をしていました。その時ふと「大学を諦める」人たちがいっぱい出てくるだろうという話になったのですが、私にとってその主語が大学生であったのに対して、先輩の主語は高校生だったのに少し経ってから気がつきました。こうしたことから「大学を諦める」人たちを生まないための多角的なアプローチが必要だと考えました。
理事の伊藤駿(写真は2016年に大阪大学で行われた講演会での様子)
このアンケートを作った同時期には、大学へ学費返還を求める署名活動や、経済的に困窮する大学生たちの状況を調査した報告が徐々に取り上げられていました。そして東京農工大学や明治学院大学、東北大学などが独自の学生支援を決めるようなこともありました。私の所属する広島文化学園大学も学費の納付延納を認める通知を出しています。正直に言えば、学費返還を求める声には共感します。確かに授業を(少なくとも予定していた形では)受けられていないのですから。しかし、世の中に学費を返還できる大学がどれだけあるでしょうか。特に私立大学では収入の多くが学費を占めますし、そうでない国公立大学においても学費収入がなくなれば、教育活動に影響を及ぼすのは必至です。アンケートの趣旨でも書いているのですが、新型コロナウイルスによる影響を大学―学生間で解決することは一時的に(見た目上)可能であっても、効果的な解決方策だとは到底思えません。また、受験生の「大学を諦める」問題は全く検討されていないと言わざるを得ません。そうした思いから、次にお話するような展望を思いつき、アンケートを実施しようと考えました。
〈参考〉
・東京農業工業大学:【重要】新型コロナウィルス感染拡大に伴う生活要支援学生への緊急支援策について
・明治学院大学:新型コロナウィルス感染症に関する特設ページ
・東北大学:学生のみなさんへ(注意事項および経済支援について)
・広島文化学園大学:【重要】新型コロナウィルス感染症への対応(前期授業料等納付金の納入猶予について)
声を届けるためには「数」が必要。状況改善にむけ、政策提言や支援策を打ち出したい。
――アンケートの結果はどのように活用する予定ですか?
まずこのアンケート結果は、10,000件の回答を目標としていますが、大学生・受験生のおかれている状況を明らかにし、政策提言へと繋げていきたいと考えています。少し話がそれますが、全国学力学習状況調査なんかをするときには、わざわざ悉皆調査でやる必要は(明記されている目的達成のためには)不要だと言われています。おそらく大学生・受験生のおかれている状況を明らかにするのも、大きな回答者数は(適当な手はずを踏めば)不要です。しかしながら、このアンケートを作る際に官公庁で務めている人たちと話をすると、やはり数があるかどうかはインパクトを大きく左右すると言われ、逆に数があれば、然るべきところまで持っていけるとアドバイスをもらい、こうした設計にしています。もちろんウェブ調査という時点で一定の偏りは出てしまうでしょうから、解釈には一定の考慮が必要です。
第二には、そうした状況を改善していくための施策を打ち出すためのデータです。近日中にはお知らせできると思いますが、今困っているのは特定の誰か、ではなくほぼすべての人々と言えるのではないでしょうか。私は東日本大震災の年に大学に入学したこともあってか、被災地ボランティアと呼ばれることを継続しています。これは被災地外の人たちが被災地の問題を解決していくお手伝いをしていくという形、つまり被害を受けていない人たちが一定数いたからこそ、できた形です。しかし、こうした形のボランティアは今回は通用しません。そうしたことを考えれば、お互いに困っていることを補い合いながらなんとかやっていくことを模索する必要があります。具体的に考えていることを一つ紹介すれば、現在休校などで学びが遅れたり、止まったりしている子どもたちに対してオンラインでの学習支援を大学生にしてもらい、大学生に賃金を支払う形があります。オンラインでの学習支援は個人情報の配慮などを徹底すれば、移動しなくとも可能でしょう。そうしたモデルをいくつも走らせていくことを画策しています。
おわりに
ROJEは学生主体のNPO団体ですが、活動を支える理事やOB・OGの方々の多くは、「教育」をキーワードに様々な現場の第一線で活躍されています。伊藤のお話からは、今回のアンケート調査を行うに至った背景には、そうした様々な現場で生じているいくつもの問題意識があることがうかがえました。
アンケートは4月30日(木)まで実施中です!多くの大学受験生・大学生、その関係者の方々の「声」が必要としています。たくさんのご協力をよろしくお願いします。
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