【取材】陰山英男先生


隂山英男先生に関西教育フォーラム終了後にインタビューを行いました!

隂山英男先生のご講演はこちらからご覧ください。

 

_関西教育フォーラム2015の感想をお聞かせください。

最近、子どもの貧困問題と学力に目が向けられてきています。それは、家庭の所得が低ければ、子どもの学力が下がるというものです。世の中ではその理由として、塾に通えないということがストレートに言われています。

ところが、それは私の皮膚感覚からすると筋違いな話です。(他県と比べて学力が高いとされる)秋田県や福井県の県民所得は高くないし、かえって郡部へいくと学力はすごく上がっている感じがあります。世の中の誤解が一番怖いですね。事実をよく見てみると、子どもの貧困と学力の関係は、集中的に都市の話なのです。きちんと事実を分析したうえで対策がとられれば、必ずいい方向に向かいます。しかし、事実がきちんと認識されていなければ、対策を打っても良くならなかったり、かえって状況が悪くなることもあります。

ある自治体で、子どもの塾代を補助するという対策を掲げているところがありますが、私からすれば検討の余地のある政策です。その一方で、同じ人物が、中学校の給食については全面的に推し進めています。これは非常に素晴らしいことです。このように、一人の政治家がやっていることをみても、素晴らしいことと、検討すべきことが混在しています。

今の政治状況を考えると、小選挙区制なので「誰に投票するか」ということになります。「どの政策を選ぶか」ということを細かく精査できません。そうなると、一体何がどうなっているのかを市民レベルで考えていく必要がある。その点では、今回のフォーラムはかなり良い感じになったと思います。

 

_世の中で起きている現象について、「なぜこの現象が起きているのか」という正しい分析結果が知られず、間違った認識が広まってしまうことも結構ありますよね。それは、やはりマスコミの影響が大きいんですか?

 

マスコミの影響は大きいですね。先日、新聞社とテレビ局の取材を受けましたが、彼らは私の過去の取材記録をよく調べていました。そして、彼らは私がまだ何も言っていないのに、「これまでメディアはすごく重要なことを報道していなかった」と自身で言っていました。

他の職種でもそうだと思いますが、報道する側の人々の中にもプロからアマチュアの記者までいます。メディアもひとくくりにしてはいけないですね。また、このような状況の中では、メディアをきちんと識別する受け手の能力、つまりメディアリテラシーが必要になってきます。

この十数年の間に何が問題になっているのかを考えた時、「貧困」が大きな問題になってきています。これまでは、日本全国で学力低下が引き起こされたと言われる「ゆとり教育」が問題とされてきましたが、2012年のPISAで全体的に学力が回復したことが分かりましたよね。一方で、ここ最近は都市部の一部の子どもたちがこぼれてしまっているという「貧困」の問題が出現してきました。この問題を解決しなければいけないということをアピールしたかったので、それはうまくいったのではないかと思います。

 

_陰山先生の講演では「貧困」が一つの大きなテーマになっていたと思います。「教育格差」の問題を扱う時には「子どもの貧困」がセットで語られることが多いですよね。そこで、改めてお聞きしたいのですが、「貧困」とはそもそもどのような状態を示すのでしょうか。

「貧困」とは、早寝早起き朝ごはんに代表されるような、子どもにとって必要な生活習慣が維持できない環境のことだと思います。また、人間関係が極度に不安定で、情緒的な安定が得られる時間帯がないことだと考えます。つまり、居場所がないという状態、安心して自分のことが語れないという状態におかれているということですね。例えば、父親と母親が今にも離婚しそうな時に、自分の話をしたり、いじめの悩みを安心して打ち明けられないでしょう。

 

_こうして貧困が問題になっている中で、先生は児童虐待についてもお話しされていましたね。そして、その原因としてもやはり家庭のやせ細りを取り上げておられましたが、現在なぜ家庭のやせ細りが起こってしまっているのでしょうか。

非正規雇用されている若年層の給料が安いからでしょう。これは社会問題であると同時に皆さん自身の生き方の問題に関わっていることですね。家庭のやせ細りは、経済基盤の不安定さが一番の原因になっていると考えます。

 

_また、講演の中で、教師の多忙化(タリスショック)についてのお話がありました。日本の教師は他国と比べてもとびぬけて労働時間が長く、余裕のない毎日を過ごしています。それに追い打ちをかけるように、昔なら家庭でやっていたことが今は学校に求められてきています。現在、貧困家庭では子どものことに手が回らず、家庭でしつけなどができない状況にあります。このような状況の中で、家庭と学校がどのように協力していけばいいのでしょうか。

 

まず、貧困でない家庭、自立できる家庭には、それぞれ家庭のやるべきことをしっかり家庭でやってもらうことが大前提です。

自立していない家庭をどうするかということですが、方法は地域や行政と連携するしかありません。そのためには、学校は地域に開かれないといけません。学校と地域の対話の機会をつくったりして、プライバシーの尊重をしつつ、学校の抱えている問題・情報を共有することが大切です。ポイントとなっている家庭や地域に対しては、行政面から適切な指導もしていかなければなりません。

また、この問題が激しいところでは、ソーシャルワーカ―やケースワーカーのような人が学校の中に入って、子どもたちの事実面をサポートすることも必要となってきています。

学校を開くという点においては、都市部だけではなく田舎も基本的には同じです。うまくいっていない家庭のある地域ほど、学校が開かれていなければならないと思います。予防的な意味でも学校を見える状態にしておくことが大事です。

学校を開くということは、クレーマーをなくすことにもつながります。クレーマーは、基本的に周囲の人の知らないところで学校に突っ込んできます。クレーマーといっても、学校で全く何も問題が起きていなければ来ないはずなので、クレームをつけられるような物事の火種となることが学校で起きているのだと思われます。ここで、もともと学校を開いていないと、そのような小さな問題が起きた時も学校は隠したがります。それを見たクレーマーは待っていましたと言わんばかりに突っ込んできます。もし学校を開いていれば、クレーマーが突っ込んできたということが周囲の人に見える状態になります。だから、結果としてクレーマーが来なくなります。

 

_学校は閉鎖的な性格を持っており、いきなり学校内のことをオープンにしていくのは、なかなか難しいところもあると思います。具体的に、どのように学校を開いていったらいいのでしょうか。

 学校側が見栄を張らずに、地域の人や自治会の人を積極的に呼び込むことです。学校では何も問題が起きてはいけないというような先入観を持たず、問題はおこるものとして考えることが大切です。

 

_陰山先生の講演の後には、若槻先生や西矢先生とのパネルディスカッションがありましたが、いかがでしたか?

今回のパネルディスカッションでは、教育学と現場をつないでいく一つのモデルが見えたのではないでしょうか。

どのような学習がどの程度有効だったのかという数値的な統計が現場側から今後もっと多く出たら良いと思います。この教材を何か月間やったら子どもがこんな風になって、その結果、学校の環境はこうなりました、というようなデータを出してもらえるとその実践が普及しやすいですね。

福岡県飯塚市の学校を例に出すと、百ます計算、漢字前倒し学習、音読などを集中的におこないました。この学校は当初、学校の基盤そのものが揺らいでいる状態でした。そこでこの実践を1年間やったら、全国学力テストでほぼ最下位レベルだったところから全国クラスまでになりました。ここで注目したいのが、その実践が軌道に乗り始めた時、保護者からのクレームがゼロになったことです。そうすると、先生は指導に集中でき、子どもたちの学力はどんどん伸びていくという良い循環ができました。このように、実践の内容、期間、成果がデータとして残っていれば、他のところに応用しやすくなります。

アーカイブ

ページ上部へ戻る