西矢大亮先生による郡山小学校の実践のご紹介


私の勤務している郡山小学校の取り組みについてお話しします。少し最初は暗い話が続くと思いますが、日々、子どもたちと向き合いながら貧困や格差に立ち向かっている学校現場の話を聴いていただけたらなと思います。やはり貧困に目を向けるというのは、大人も子どももすごくしんどい部分かなと思うのですが、最初の部分は貧困とかしんどい部分を、数値も含めて本校の実態を説明して、その後に、じゃあそういう風なことに対して、そのままでいいとは公立学校の先生たちは思っていないので、その貧困に対してどう向き合っていくか、どういう実践ができるかということについてお話します。まずは、貧困格差という面では郡山小学校はどういうところであるのか。状況であるとか、数値とか、子どもの様子でみなさんと共有したいと思います。

2つの小学校と1つの中学校からなる校区の一部に、郡山小学校区はあります。郡山小学校区は、府営と市営の団地に囲まれていまして、多くの子どもたちはそこから通っています。しかし最近は北西部に戸建ての分譲地ができてきて、校内で経済状況が二極化してきているな、というのが最近の見立てです。また、うちの学校はだいたい全校児童の45%が要保護・就学援助をうけているということで、全国平均の約3倍の数値になります。一人親家庭もだいたい全体の2割、学年によってはもっと多いところもあるのですが、そんな状況で子どもたちは学校に来ています。

そうするとどうなるのか。毎年行っているアンケートがあるのですが、その結果、1年生ですらもう「自分のことが嫌いだ」とか、2年生でも「どちらかというと嫌い」という子が2割ちょっといる。自尊感情がかなり低いんです。「家で褒められたことがありますか」という問いには、1年生なのに「全然褒められない」という子がこれもまた2割もいる。「おうちの人と学校の話をしますか」という問いにも、「しません」という子が2割。こういう状況からも、子どもたちがかなり苦労しているなあ、と分かります。その中で最近、新聞でも取り上げられている虫歯の数、これは家庭がどれだけ子どもに目を向けられるかということの影響が大きいと思うんですけれど、全校児童の34%には虫歯がある。その虫歯のある子の中での受診率が、35%です。この状況を見てもらって分かるように、なかなか子どもたちに家庭の目が向いていない。さっきゲームやテレビの時間についても(お話に)ありましたけれども、家に親がなかなか帰っていない子が多いんです。朝も会えない、おはようの挨拶もない、という子どもたちもいて、テレビ見放題、ゲームし放題の状況なので、「1日2時間以上テレビを見ている」という児童が45%、「(1日2時間以上)ゲームをしている」という児童が30%もいるという状況です。

普段の子どもたちとの会話の中でも、しんどい状況が見えてきます。「学校来るの少し遅いやん」と聞いたら、「朝起きても誰もいいひんし」と返ってくる。その子と話す中で「元気ないやん」という話をすると、「今週家で誰ともしゃべらへんかったわ」とか、「昨日何で休んだん?」と聞いたら、「昨日お母さんが家出て行って、お父さんは仕事休まれへんかって、2歳の弟の面倒見なあかんかって、学校に行けへんかった」という状況。また、まあ勉強してない子が多いので、子どもに「勉強しようや」と、そういうことを言うと、「勉強はせえへんよ、だって働かんでも生活保護もらえるやん」みたいなことを言っちゃう。この子は4年生ですけどね。「将来の夢について考えよう」という授業の中での話のときにも、「うちお金ないから無理やと思うわ」ということであったり、「自分のこともっと大事にしようや」というやりとりのなかでも「私なんかおらんでもええと思ってるし、まわりもそう思ってる」「大人には分からへんねん」というような、本当にこちらの心がぐさっとくるようなことが、日々あります。

これらはみんな暗い現状なんですけど、だったら公立学校にできることってなにかな、と考えると、お2人の話にもあったように、学力を下支えすることが一番大事だ、と思います。学校に行きたい、学校好きやねん、とまず言ってもらえることが大事で、先ほどから話に上っている生活習慣の改善がまず命かな、と。そこがないと子どもたちの学力は絶対つかない。そして学校に行ったら他者と学べる、一人じゃない、誰かに支えてもらっているという、そういうことを感じてもらうのが大事だと思っています。そういう中で最終的に、うちの校区では18歳時点での進路保障を目標に置いていますので、そこでどれだけ進路を選択できるのかな、保障できるのかな、ということをよく教員の間で話しています。そうなると、公立学校で出来る重要なことは、学力保障と人権教育だな、と。

うちの学校で子どもたちの様子を見ていると、子ども同士で学びあっている様子があるかな、と思います。重要なのは、格差、しんどさを理由にしないこと。そこから子どもたちに学力とか笑顔をつけることが大事だと思っています。本校の教職員、今担任をしている先生のほとんどが教職経験三年以下です。本当に入れ替わりの激しい学校です。入れ替わりが激しくて難しいことも多いけれども、その中で子どもたちに学力をつけるのには、5本柱が必要かな、と年度当初の4月に確認しています。
西矢①

 

 

 

 

 

 

 

生活指導も大切ですが、やはり授業もしないといけないので授業の中で子どもたちをどう育てるのか、授業の中で基礎学力をつけようと、授業研究にも精力的に取り組んでいます。うちの学校では2割弱ほど外国にルーツのある子どもがいるので、その子たちの学力保障も大切に考えないといけないものです。そしてなんといっても、小中の校区で同じように子どもを育てようというネットワークづくり。昨年度は年間10回の公開研究授業を実施し、授業を通してどんな学校にしたいかを確認する時間を設けました。この授業研究では、教職員・学校全体の方向性を共有し、チーム学校を作っていこうという風に思っています。その為にも、職員室で毎日授業の話を自主的に出来るような学校文化をつくろうと思っています。トップダウン的に研究授業をやりなさい、というのではなくて、自分たちが、子どものために授業をするんだという意識をもって授業づくりをしています。授業研究会は、批判する会ではなくて、授業を録画したビデオを教員皆で見ながら、子どもたちがどうやって学んでいたかな、モノ(教材・学習対象)とつなげてたかな、仲間とつなげてたかな、ということを全員が必ず発言する。誰かだけが発言をして声の大きい先生だけで進めていくのではなくて、どんな先生もその授業で学んだことをお話する、というようにしています。

つながる、ということでいうと、うちの学校では机をコの字型に並べてのペア学習や、4人班でのグループ学習というものを取り入れています。子どもが主体的に学ぶのには、一斉型で教師がどんどん引っ張るのではなくて、ほんとに学校に来るのが大変やねん、しんどいねん、という子が、仲間に支えられてその中で学力をつけていく。一人も見捨てないように、例えば3人4人でも学べていなかったらもうそれは授業じゃないと思っているので、全員が学べるように、授業を作っていきます。その中で学び続ける人になって欲しいと思っているので、「先生の話が面白いから授業を聴いてるんねん」ではなくて「授業の課題が面白くて」「友達と一緒に考えることが楽しいから」また学ぼうという、そういうサイクルを作りたいなと思っています。また、教師がしんどい子を支えるといっても、限界はあるので、教室を飛び出す子、授業に入れない子どもが、班の子だったら支えられる、というようなサイクルを作ることを心がけています。ペア・グループで子どもたちが学ぶ中で教師が出来ることは、子どもたちが安心して過ごせる教室を作ることだと考えています。また、声のトーンを落として子どもと目線を合わせたり、教師がしゃべりすぎると子どもたちの学びが途切れていくので、なるべく最小限のしゃべりで子どもたちが学ぶ。これらは郡山小学校だけでなくうちの校区みんなで確認していることで、こういったことを授業の中で実践していっています。

基礎学力をどうやってつけていくかということについては、2年前に教職員で、いま郡山で何が大事やねん、子どもたちにどんな力をつけたいねん、ということを考え、そのときに考えた学校の決まりだとか学習の仕方だとかを、下敷きにしようということでこういう風なものをつくりました。

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業者に頼んで作成したら20万円くらいするということで、教師が手作りで夜な夜なみんなでラミネートをして子どもたちに下敷きを配布しました。朝読の決まりや、ふり返りしゅうかん(週間・習慣)について、ペア・グループでこんな関わりをしたほうがいいよ、ということについてなどを下敷きに載せています。これを週に1回行っている児童集会で、6年生の方から、「こんな下敷き作ったよ」と、6年生が「私たちが作りました」くらいの体でしゃべって全校児童に伝えています。そうでないと教師がトップダウンでこれやるぞ、ということでは子どもたちはなかなかはいってこないので、そうではなくて同じ子ども同士の中で、単なる決まりじゃなくて自分たちが気持ちよく学ぶためのものとして、みんなでやっていこうねということを伝えています。持ち物についても1年生から6年生まで、これはもってきてもいいよ、これはいけないよという学年別の一覧表を作って、守ってもらうようにしています。先ほど体力が下がってきているという話があったと思いますが、茨木市も体力はかなり低い、ということなので『こおりやマンカード』というのを作って体力向上につなげたり、20分休みには『こおりやマン☆ラリー』という、全校児童が校庭に出てきて、いろんなところで体力向上につながる遊びをしたりしています。

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朝の時間というものもあって、朝読をしているのですが、その中で『朝のショートストーリー』というものを最近やり始めていまして、朝読の時間を設けても、やはり読まない子は読まない、読めない子は読めない。このままでは駄目だということで、読み物をペアで共通のものを渡して、そのあと2人で交流をする。読んだ後、人と話をすることでそれが書く力にもつながるんじゃないかな、と思ってそういう取り組みをしています。また、『自主学ノート』というのも全校児童で、自ら学ぶことへの意欲や関心を高めよう、学習から自尊感情を高めよう、ということで児童会の方で推進しています。

郡山小学校は全校児童で200人位しかいませんので、なるべく縦のつながりをつくりたいなあということで、縦割りでグループを作って『トレジャーハンター』という全校遠足をしています。今年はカレー作りとかキャンプをやろうと企画して、結構大変だったのですが、学力を支える土台としての集団をつくる機会として、縦割り活動というのは有意義であると感じます。また、縦割りの活動を、遠足だけでなく学習にも取り入れたいなあと思いまして、高学年が低学年の勉強を教える『こおりやマンタイム』というのを月1回やっています。それは、やはり低学年の学力はすごく大事だということで、低学年の学力保障をしたいなあということと、普段は学力がしんどい高学年の子が、低学年の勉強だったら大丈夫だということで、それでもたまに間違ったりはするんですけど、そういう子どもたちが頑張れる場、高学年の自尊感情を高める場、という狙いがあります。普段ペアやグループで勉強をしていますので、子どもたち同士の関わり方はとても優しいかなあという雰囲気が見受けられます。そして終わった後には、少し10分間ほど、サイコロトークをしてリラックスして集団作りをしています。

他にも全校での取り組みとして『響きあい』という詩の暗唱をしています。週に1回、子どもたちは、しっかり暗唱ができるかどうかの検定をうけに職員室にやって来ます。詩にも古典的なものとかいろいろありますが、子どもたちにどんなことを暗唱させたいかな、音の響きとか色んなものを子どもたちに感じてもらいたいな、と考えながら教員のほうで選んでいます。検定の日には職員室にいっぱい子どもたちが押し寄せてくるので、担任の先生からしたら、まあちょっと面倒くさいなというところもあるんですけれど、これをちょっと変えようということで、今学期は縦割りで検定を聞いてもらう時間にしようかな、と取り組んでいます。毎回毎回、やってみたらだめだった、じゃあどうしたらいいかな、とどんどん建設的に制度を良くしていこう、というのが学校の文化かなあと思っています。『響きあい』では学期末には、朝の時間に縦割り活動として『響きあい』を練習し、発表会を開いています。

本校では自治活動も大切にしていまして、児童会の活動なんかもなるべく子どもたちが自主的に取り組みをやっていけるようにしています。『わくわく勉強ルーム』というのも子どもたちの発案で実施していて、毎週火曜日に低学年が「勉強を教えて」と来れる教室みたいなのをつくろうということで、1年生から3年生までがかけ算だったり、「宿題で分からへんねんここ!」というのを聞きに来て、それを児童会の子どもたちが教えるというのをしています。私たち教員が忘れていても、子どもたちの方から「先生、今日わくわく勉強ルームやから放送かけにきたで」、という風に最近は言ってくれるまでになりました。また、『3(トリプル)M作戦』という、「まじめに、まっすぐ、まっ向勝負」をスローガンにした取り組みも児童会主体でやっています。今までは真面目に頑張っている子を馬鹿にする風潮があったので、「真面目に頑張ってることってすごく良いやん」というアピールを児童会のほうでして、真面目に頑張っている子の写真を撮ろうという企画です。写真を撮るだけなんですけど、自分が写っていると「やったぁ!私、写ってた」と子どもたちにとっても嬉しいですし、とにかく、真面目が良いんだということを子どもたちに伝える。それをやっていると、給食当番で並んでいくときや朝会から教室に戻るとき、今までは廊下にいっぱい広がって歩いていたのが、何故だか右側通行できれいに歩いている、これは別に、右側通行しなさいという朝会のアピールがあった訳ではないんですけど、なんとなくそういう雰囲気が出てくるのかな、と。今、『授業がんばろうキャンペーン』というのもやっているのですが、11月というと2学期の中だるみの時期ですので、そういう時にもう1回、自分たちの教室で「なんか授業であかんこと無いかな」「頑張れることないかな」という話をして、各クラスでそれぞれ案を出し合ってもらいます。『生活ふり返りしゅうかん(習慣・週間)』というものにも年5回、取り組んでいます。1週間、正しい生活習慣と家庭学習の定着を目的に、朝ごはんを食べるということや、音読など、いろんなことができるかな、と10項目についてチェックして振り返ります。

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生活の改善については保護者への啓発は勿論なんですけれども、教員が目をかけてチェックすることも大切です。登校も教員がチェックして、その1週間はすごく眠たいんですけど、朝早く行って子どもたちが来るときに一人一人名前を呼んで確認するんですよ。朝の時間は、その時は朝読はなしにして、持ち物を全部チェックします。全部チェックするくらい徹底的にやらないと、教員が「鉛筆削ってこい!」とか口で言うのは簡単なんですけど、子どもたちは言われてもなかなか出来ないんです。それを出来ないからとにかくそれを習慣化してほしい。『○○しゅうかん』というのは1週間の“週間”は勿論なんですけど、“習慣”化してほしい、という思いがすごくあって、「これがスタンダードなんだよ」というのをちゃんとわかってもらわないと、例えば朝ごはんを食べてこないのがスタンダードになってしまっている子もいるので、なにがスタンダードなのかを教える機会ととらえています。毎回1週間やったら学年ごとに達成率の数値が出て、それをグラフにしたものを発表するので、どの学年が達成していないかというのが全部出るんです。「今回うちの学年あかんかったんやなあ」というのが分かって、「じゃあまた次どんなことを頑張っていこうかなあ」という風に次につなげるようにしています。さっき虫歯のことについても話したと思うんですけど、それも2年前から、やっぱり歯のことも家庭に啓発してもなかなかやっていってくれないので学校でやるしかないなと思って、子どもたち自身が「歯磨き気持ちいいなあ」とか「歯を磨くことがだいじなんだな」と思わせるためにも、歯磨きを習慣づけられるように学校の方で取り組んでいます。

1人1人に合わせた学力保障の為に、4~6年生を対象とした『学びルーム』というのもあります。毎日放課後に、「今日の算数の宿題難しいなあ」「家に帰って宿題が分からへんかったらいやや」と思った子どもたちが自主的に来る部屋です。宿題が分からなかったら、それが原因で学校に来ない子もいるし、学校に来ても、“宿題をやっていない→先生に怒られる→ばつが付く→(宿題を)破る→その日の授業は進まない”という悪循環が起こるので、じゃあ、算数だけに限ってなんですけども、そこで教員がついてしっかり丁寧に関わってあげる、全問正解になりますよね。『学びルーム』で丸つけはしないんですけども次の日の朝来て、宿題をチェックしたら全問正解でオッケー、丸つけも終わる。気持ちよく授業に入れるということがうちの校区では大事かなと思っています。

地域との連携に関しましては、『五日制委員会』というものがあります。土曜日の学校が休みになったときに地域が、「うちの学校の校区でそれをやられたら親は皆働きに行ってるやん、どうするねん」となりまして、地域の人が頑張ろうということで立ち上がった委員会です。五日制委員会の人たちが土曜日も色んな講座を開いてくれたり、『五日制クラブ』というクラブを開講してくれたり、子ども教室をやってくれたりもしています。

中学校へとどう繋げていくかということについては、小中連携ということで、やっぱり中学校区全体で子どもたちを見ていかないといけない。小学校こっちでこんなことやってます、もう一つの小学校で違うことやってます、では、じゃあその2つが重なって中学校行ったらどうなんねん、と。その2つがずれると子どもたちを育てるという面で効果が薄いかなあということもありまして、中学校区内の2つの小学校でいま言った流れの半分以上のことは共通理解を得ています。それが豊川ネットワークで、月に1回専門部会がありますので2小1中で集まって「今うちの校区こうやねん」とか、「学力についてはこんな取り組みしてるよ」「じゃあ私の校区でもやってみよ」、というようなことを日々連携をしています。

授業づくりに関しましても、中学校の授業づくりにもいくし、小学校の方の授業づくりにも来てもらって、それぞれが授業づくりで子どもたちを育てていこうというスタンスになっています。こうやって交流をすることで、中学校から学べること、中学校へとつなげられることがあるかなと思っています。

 

西矢⑦

最後に、郡山小学校が大事にしていることがあります。経済格差を埋めるために、また、教育効果を最大限発揮するために、学校全体で思考・創造・連帯すること。子どもたちの厳しい生活背景と学力を支えるために丁寧な関わりをすること。外国にルーツのある子どもたちが2割弱在籍しているので、多文化共生教育を柱に人権総合に取り組むこと、などです。教師が子どもの背景を引き受けながら、子ども同士のつながりで、一人ひとりが安心して過ごせる学校にしたいと心がけています。

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