【講演録】苫野一徳先生ご講演


『グローバル化を考える――自由の相互承認とは――』

 

【まとめ】

・「一般化のワナに陥らない」「問い方のマジックに陥らない」ことを常に意識する。

・グローバル化する世界で大切なのは、多様な人たちをお互い認め合い、「競争」というよりは「協働」していくこと。

・教育の本質は「自由の相互承認」。世界中の多様な人々と協働してゆくためにも、その感度を育む教育が大切。

かんふぉ4

私は「哲学」という学問を土台にして、教育や社会を考えるということをやっています。

哲学というと、「意味のないことをだらだらと難しい言葉で考える、役に立たないもの」というイメージがあると思いますが、そうではないのです。どうやって生きていけばいいのか、人間関係のつくりかた、これからの社会をどうつくっていくか。こういったことを考えるとき、「こう考えていけばこの問題は解ける!」という『考え方』を出す学問、それが哲学なのです。実は非常に生活に役立つものなのですよ。

さて、本題に入る前に、皆さんと共有しておきたいことがいくつかあります。

1つは、「一般化のワナに陥らないこと」です。議論をする際に、まるで自分の経験がみんなにあてはまるかのように、一般化して議論をしてしまうということがよくあるのです。例えば、自分は英語を小さいころからやっていて海外の友達もいる、としましょう。そうすると「みんなグローバルになるための教育を受けるべきなんだ!」みたいな考えになってしまう。逆に、外国人と特に話をしたくないという人がいるとする。そうすると、「グローバル教育なんて必要ないんだ!」というように一般化してしまうことがあります。こういった例は無数にありますが、特に「教育」の分野においては誰もが受けている分、本当に多いですね。これでは、みんなが言いたいことを言うだけの非建設的な議論になってしまいます。なので、自分が「一般化のワナに陥っていないか」ということを常に意識する必要があります。

もう1つは、「問い方のマジックに陥らない」ということです。「これからはグローバル教育をやるべきか、否か?」――こう言った聞き方が、「問い方のマジック」です。「あっちとこっち、どっちが正しい?」という問いを立て、「あっちが正しい、こっちが正しい」という議論をする。しかし、どちらかだけが合っているなんていうことはまずありませんし、むしろどちらも正しくないことの方が圧倒的に多いです。だから、双方が納得できる第3の新しいアイデアを出すということが必要になります。「よりお互いが納得できるような、もっと良いアイデアを創り出す」という発想で議論をした方が、もっと建設的な議論になると思います。

それでは、ここから少しずつ本題に入っていきましょう。

自分なりに「グローバル化」を整理すると、少なくとも3つの観点で見ることができます。1つ目は、「経済のグローバル化」あるいは「グローバル資本主義」。2つ目は、「世界リスク社会」としてのグローバル化。そして3つ目は、広い意味での「文化交流のグローバル化」

まず1つ目の「経済のグローバル化」。これは、競争がものすごく苛烈化するということですよね。今までは限られた狭い範囲で行われていた競争が、世界中に拡大する。当然貧富の格差が広がる。世界内の格差も広がる。この時に、「この競争を勝ち抜けるグローバル人材を育成することが大事なんだ!」ということではなく、「どうすれば、みんながフェアな競争を実現できるか」ということを考えられる人材が必要です。つまり、「競争」よりも「協働」が大事なのです。

2つ目は、「世界リスク社会」。今やリスクは1国内の問題ではありません。1国で原発問題が起こると、その影響は他国にもおよぶ。アメリカでリーマン・ショックが起きると世界金融危機になる。このような事態に対応するためには、やはり他国と協働しあって解決していくことが不可欠です。

そして3つ目に、「文化交流のグローバル化」。これには、「多様な人達がどうすればお互い認め合って共通了解をとっていけるか」が非常に大事になってきます。「グローバル化」・「グローバル人材」というワードが出たとき、「グローバル競争に勝ち抜ける人材の育成」という方向に目がいってしまいがちですが、「いかに多様な人々が協働し合って生きていけるか」の方が実は大事なのです。

1つは、「学校・教室空間を『信頼と承認の場』にしていく」ことです。自分のことが認められない、承認されないと、他人のことなんて認められず、むしろ攻撃性が発達してしまう。だから自分が承認される経験は欠かせません。

2つ目は、「人間関係の流動性を担保していく」ことです。今の学級は比較的閉鎖的なので、相互承認の感度が育まれにくい環境にあります。狭いところに大勢の人間がひしめき合っていると人間関係が嫌になり、攻撃し合ったりもしてしまいます。これはいじめなどにつながる恐れもあります。

3つめは、「協同型、対話型の学びを促進していく」ことです。簡単に言うと、お互いの価値観や感受性を交換し合い、それを認め合い、さらには「第3のアイデア」を創る経験を充実させていくことです。皆で授業をただ聞いているだけでは、相互承認の感度は中々育まれません。お互いの価値観や感受性を交換しあう対話が必要なのです。そこで自分の価値観がすべてではないことを知ることができます。異質な考え方を持つ者同士で対話をしていく中で、お互いに「ここまでなら納得できる」という共通の了解を見出すことができるようになっていくのです。

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