目次

Q1.今回のフォーラムの感想
Q2.登壇理由
Q3.フォーラムで一番伝えたかったこと
Q4.今後の活動
Q5.来場者や世間に対して
Q6.最後 に一言

Twitterからの質問

インタビューの概要

長年特別支援教育に携わってこられた安部先生は、インクルーシブ教育が浸透するには教師同士の連携や意識の改革、地域ぐるみで子どもをサポートする必要があるとお答えくださいました。

Q1、本日は教育フォーラムにご登壇頂き誠にありがとうございました。
まず、本フォーラムのご感想をお聞かせください。

東大の五月祭ということで、来場者のメインは学生や保護者の方だと思っていたのですが、予想よりも現場の先生が多かったという印象を受けました。

Q2、今回のフォーラムにご登壇頂いた理由はなんでしょうか?

最初は忙しかったので断ろうと思っていました。ですが、フォーラムリーダーの佐藤君が私のクラスの授業を見学に来た時に涙を流している姿を見て、フレッシュな気持ちを持った彼らと接したいと思いました。学生のみなさんは、私達が学生だった30年前よりもイキイキしていて、しっかりとした問題意識も持っているようです。若い人たちも捨てたものじゃないと思いました。引き受けて良かったです。

Q3、今回先生が一番伝えたかったことはなんでしょうか?

他人を理解しようとする気持ち、つまり「愛情」があれば、様々な問題を抱えている学校現場も再生できるということを伝えたかったです。今までの教育ではノウハウや合理性、効率性ばかりが追及されてきました。その結果生じたひずみが、現在の教育問題に表れているのではないでしょうか。発達障害の子に配慮した授業を行ったり、あるいはインクルーシブ教育を工夫して取り入れたりすることで、教育実践の質をぐっと引き上げることにつながると思います。ただ、子どもや保護者と誠実に向き合い、一生懸命に取り組んでいる先生が頑張りすぎてしまうという現状もあります。そしてまじめな人ほど壊れてしまうのです。その現状を変えていき、頑張っている人が報われるような学校現場にしていきたいと思っています。

・まじめな人ほど壊れてしまうというのはどういったことでしょうか?

一生懸命仕事に取り組み過ぎてしまう先生は、自分だけの力では対応しきれない部分も、「自分が悪い」と思ってしまい自分を責めてしまいます。私は、現場で頑張っている先生たちを応援するのが自分の役割だと思っています。子どもを救うには、やはり先生が元気でイキイキしていなければいけません。発達障害、授業の改善、インクルーシブ教育などの延長線上に学校を再生するというキーワードがあると思っています。

Q4、他の登壇者のお話を聞いた感想がありましたらお聞かせください。

陰山先生も鈴木先生も、既成概念にとらわれない熱い男だと思いました。私はそういう人が大好きです。三人の共通点は「多動」だと思います。平均的な仕事をして平均的な生き方をするのではなく、人がやらないようなことまで手を出す。世の中を変えていくのはこういう人なのではないでしょうか。鈴木先生が最後に、「みんな変わっていていいんだ」とおっしゃっていましたが、政治家が言うようなことではない気がして驚きました。(鈴木先生が)「他者を理解できることが幸せになるための心根」ともおっしゃっていてとても共感しました。
政治家でも、民間でも、たとえフィールドは違ったとしても考えていることはあまり変わらないということが分かって、とても面白かったです。

・その共通認識は、子どもたちのために何ができるかということでしょうか?

ええ。フィールドや、考えが多少違っても、魂の熱い人が集まると面白いことが起きます。これが金太郎飴ように、どこを切っても同じ顔をしている人たちが教員ではいけないと思います。発想が突き抜けないので、仕事も前年の“上書き保存”になってしまいます。新しい血が学校に注がれることで、様々な子どもたちが救われるはずなので、私は学校に若い人がどんどん入ってきてほしいと思っています。
私は教師で鈴木先生は政治家と、立場はだいぶ違います。しかし、立場や肩書きを取り払って、あるテーマについて同じように語ることができるというスタンスを持つことは、フェアであり素敵だと思います。

Q5、今回のフォーラムのテーマであったいじめ、そして障害者を取り巻く環境などの問題を解決するために今後どのような活動をされていくか、お聞かせください。

私自身が残りの人生で支援できる子どもたち、保護者の方々、教師は限られてしまいます。ですので、見聞きしたことや自分の考えをきちんと言葉にしていきたいと思っています。専門用語ではなく、どの保護者の方が読んでも分かるような、普通の言葉で表現していきたいです。また、現場の先生に対しては、モチベーションが高まるような良い研修会を開いていきたいです。一般の方にも、現場の方にもパワーを与えることができれば、申し分ないです。

・良い研修とは、現場の先生が実践しやすいことを提供するということでしょうか?

ノウハウもありますが、それ以上に魂を揺さぶるような研修をしていきたいです。そのために私は、営業マンのようにたくさんの現場を回って得た自分の失敗経験を、次の世代の教師たちが失敗しないよう発信していきたいです。

Q6、最後に、皆さんに一言お願いします。

一番の思いは、私が学生の時、障害者の授産施設で働いていた30年前から変わっていいません。異質な存在もインクルードしていく社会を実現したいです。本当の意味で日本が成熟した国になるためには、国籍が違おうと障害者であろうと、排除することなく異質な存在もインクルードしていく風潮になればいいと思っています。その時に初めて、インクルーシブ教育というものが根を張るのです。

(注1)自らの教室を開いて、同僚と学びあう関わり。学校内の教師同士の共同関係や援助の重要性を指す言葉として使われる。
(注2)国民総幸福量。1972年に、ブータン国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクが提唱した「国民全体の幸福度」を示す“尺度”。

Twitterからの質問

①発達障害の子も適応しているクラスの条件について、「教室環境と言語環境が整えられている」とありましたが、具体的にどのような手法があるのでしょうか?

教室環境については、教室の全面に掲示物がべたべた貼っていなくてすっきりしていることや、廊下を人が通っても子どもたちの気が散らないようにカーテンを閉めてあげることなどの例が挙げられます。

そして言語環境の例としては、先生の言葉が重要です。大きな声で叱りつけるのではなく、穏やかな声で諭すこと、名前を呼ぶときはしっかりと「君」や「さん」をつけることなどが挙げられます。いじめのもととなり得るのが、マイナス要素のある先生のさりげない目つきや言葉がけであると思います。子どもたちにとって、教師は一番大事な環境と言えるため、環境としての教室、言葉の形を整えなければいけません。

②インクルーシブ教育の実現に向けて、教師に必要とされているものには何があるとお考えですか?

ひとつが、教師のチームワークです。同僚性(注1)を高めるために、教師同士がもっとコミュニケーションをとらなければなりません。もうひとつがインクルーシブ教育の意味を本質的に理解することです。これは、労力と創意工夫をもって実践しながら理解するしかありません。今の学校現場にその体力があるかは一抹の不安がありますが、チャレンジすれば変わる可能性があるはずなので、私は期待しています。

③発達障害の子どもを支援するための教育と医療、地域の連携の方法や、その考えについてお聞かせ願います。

一言で言いますと、もっと連携してほしい、ということです。学校だけでなく地域全体で子どもを育てていくべきです。そして、障害を持った子どもたちが大人になった時にも幸せに暮らしていける社会であれば、私たちが年を取っても、事故で障害を持つことになってしまったとしても、生きやすい世の中になると思います。GDP(国内総生産)ではなく、グロス・ナショナル・?ピネス(GNH、Gross National Happiness)(注2)の発想に基づいた教育を目指す必要があるのです。能力別のクラスを作り競争させるような教育では、上位数パーセントの子どもしか伸びません。そうではなく中間層と下層の子たちも幸せに生きていけるような学びの場をつくりたいと思っています。

インタビュー・文責:五月祭取材班